広がり

のん気平兵衛の好日

のん気平兵衛の好日

子供たちの明日(あした)
      1
 結婚したい相手がいる――
  そのことを聞いたあと
  朝出かける電車の座席で
  思いついたのが
  次のふれーず
  
 よちよち歩きだった
   あの子が

  おしゃまな女の子  
   やがて
  スマートな職業婦人に
  
  そして新婦席で
  伴侶となるお相手と       
  ツーショットの
   はれがましい姿

  ――― 
 それから数年
  ―――
  いいママに    
  なれたね

 よちよち歩きだった
   あの子が 

  やんちゃないたずら小僧
   やがて
  もの静かな青年
  に――
 そして新郎席で
  伴侶となるお相手と
   ツーショットの
  はれがましい姿

   
       2
  実は、ね――と 
 のん気平兵衛が話し出す

   娘も息子も 
 わしの分身だったのさ

  あらゆる可能性を
  もっているのだが

 空にかかる虹のようなもの
  親の出すひかりがあるから
   輝いている
    親の方は 
  自分の照らす光で
 虹のように輝く彼らを見て
   うれしくて 楽しくて
 彼らを一人前にするためなら
  どんな苦労も厭わないと
    思ったものさ


  ところが な
  ある時期が過ぎると
   娘も息子も自ら
   輝き始めるのさ

    親の方は
  輝きを失ってしまうのに

   ついには
  親のわしの方が
 彼らの出す光のお陰で
 輝いていられるようになる

 娘も息子も
  わしら親のもの
  というより

「世の中からのお預かりもの」
   時がきたら
   世の中へ
  返さなければならない

   その代わり
  自分の手元にいる間
 十分楽しませてもらった――
  のん気平兵衛が
   目を細めて言う


孫たちの楽園

 長女に子供が
  生まれたときは

 じいさんと呼ばれることに
    戸惑いと
  恥ずかしさがあったな

   だから
 その子とは照れ隠しに
   遊び友達に
   なって過ごした

 その弟が生まれたころには
   じいさん役が 
  身につきははじめ

   次女に女の子が
    生まれたときには

   ベテランのじいさまに
    なっていた

   のん気平兵衛は
   いたずらっぽい

   笑いを浮かべている

 何しろ今や わしは
   (老)稚園の
  十年以上の留年生だからな

 最初の孫が幼稚園を卒園し
   小学生になった時点で
    追い越され

   何をやっても
  かなわないことを悟った

 あとから生まれた孫たちも
   生まれたときから
    食べる 寝る

    成長する
   ものすごく意欲を
    もっているのが

 リアルタイムで見えてくる  
    その生命力は
   今のわしにはない
   かなわないと思う

    彼らはきっと
 これからの厳しい世の中を
    察知して

   奮い立って
   生きていくのだろう

 じいさんがどう心配しようが
   おかまいなく
  彼ら自身の楽園を
  築いていくに違いない

   
 のん気平兵衛は 心底
   心地よさそうに

   笑い顔になった


のん気平兵衛の幸せの呪文

 苦しい時がある
  思うように
  いかない時がある

 どうにも収拾が
  つかない時がある

   だれだって
 そんな時あるだろうが

   のん気平兵衛の
   そんな時に
 決まって唱える呪文がある
  “大体において幸せ“

   ええじゃないか
   ええじゃないか
     それ
     それ
   それそれ――っていう
   戦国時代に はやった
    時宗おどりに
 現状肯定する点は似てるけど
  大衆的暴動につながるほど
    すてばちではない    
    のん気平兵衛の
   平凡極まる呪文
   “大体において幸せ“

   それを唱えると
    いまが
   幸せだと
  思い直せるから
  じたばたしなくなる
    だから
 生きて行ける気持ちになる
   ええじゃないか
  よりなげやりではなく
   そのかわり
   ええじゃないか
 のように威勢はよくないけど  
   再チャレンジの
  気持ちにつながるところが
    気に入っている


 妻に捧げる詩

   妻との縁は
   日一日
   深まっていく
   ――と
  のん気平兵衛は話し出す

 その深まりは砂時計のように
   定量に達すると
   また 反転させ
 螺旋(らせん)もようのように
   同じように見えるが
    日々新たな
  人生のシルエットを

   作り出すのさ

  のん気平兵衛が
   取り出したのは

   魔法の箱のような
  手の込んだ装飾を施された
    小さな箱
   開けると古い小さな
   ノートが出てくる

    最初のページに
    ハートのマーク

   愛する妻へ――の文字

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